太宰治 作、戸田幸四郎 画
戸田デザイン研究室
まるで次々と目の前で繰り広げられているように想像力をかきたてられる文章の力に圧倒され、手に取るように伝わるメロスの気持ちに鼓動が高鳴ります。長い文章もじっくり聞ける年頃になったら読み聞かせたい名作です。
どんなに強い人でも人知れず迷う時があるのに違いありません。メロスがくじけそうになり葛藤する事細かな描写や、ついに友と対面し、気持ちが次第に洗われ爽やかになって行く感動の場面といった、メロスの心の激しい揺れ動きを子供達にも感じとって欲しいと思います。絵本という近寄りやすさで名作を堪能できる、ありがたい絵本です。
「走れメロス」の文章は日常聞きなれない言葉の嵐です。しかし、話の流れは子供達にも伝わるはずです。言葉は生きているとは言え、現在は、明確さに欠け、乱れ、貧弱な言葉もあふれています。こんな世の中の言葉を浴びている子供達にこそ、学校で学ぶのを待たずに読み聞かせたい「走れメロス」。太宰治の一気に読み通さずにはいられないこの作品は、一つ一つ熟考して選ばれた言葉は人や心を動かす強い力を持つことを子供達に付き付け、考えさせるきっかけになるのではないでしょうか。
戸田幸四郎さんの大胆で力強い筆遣いの挿し絵は、畳み掛けるような文章から湧き出る読み手聞き手の想像力を妨げず、膨らませてくれます。
原文に忠実に作られた絵本です。すべての漢字にはふりがなが振られ、難しい言葉は(カッコ)の中に説明を加えてあります。ただしカッコ内の漢字はふりがななしです。
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