「なつのいちにち」

一人、この手でカブトムシをつかまえたい。
素朴な田舎の豊かな自然を背景に、
男の子のひとつの思いがまっしぐらに駆け抜けます。
真夏の太陽のように輝く忘れられない日の光景があふれ出す、
とびっきり素敵な絵本。

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はたこうしろう 作、偕成社
全国学校図書館協議会選定
日本図書館協会選定
社会保障審議会推薦文化財
児童福祉文化賞推薦作品

 照りつける太陽が輝く夏。豊かな緑がもたらす影と風の涼しさを身体で感じながら、流れる汗も気にせず駆け抜けた幼い頃。「なつのいちにち」のページをめくるとそんな記憶がよみがえります。主人公の少年が、かつての自分に重なるように思えてきます。そして、少年がクワガタムシを求めて胸を高鳴らせながら駆け抜け、あきらめずに挑戦する姿を見るたび、私は決まってぴったり気持ちが寄り添って応援してしまいます。少年のまっすぐな情熱は、真夏の色鮮やかな緑よりも一層生き生きとみずみずしく輝きを見せてくれます。文字が少ない絵本ですが、少年と共に高揚感や喜びを味わい堪能できる絵本です。この少年のような記憶を持つことって素敵です。いつまでも消えることのない宝物になることと思います。
 この絵本に出てくる「クマゼミ」はどんなセミか。クマゼミの北限は関東南部だそうです。温暖化の影響のためか東京でもクマゼミの鳴き声や抜け殻が確認されることがあるようですが、東日本に住んでいると知らないセミかも知れません。西日本にはいます。クマゼミの生息地帯に住んでいると、真夏には毎朝シャーシャーというけたたましいクマゼミの群れの鳴き声で目が覚めます。並木を見ると、あっちの枝にもこっちの枝にもセミが列を作るようにわんさと並んでいて、シャーシャーと競うように鳴いています。からだはアブラゼミよりもずっと大きくて、虫取り網がなくても手でつかまえられるニブさです。クマゼミは西日本では当たり前の夏の風物詩。「なつのいちにち」の舞台は西日本なのですね。

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