月明かりの中で湖の景色が次第に明け始め、朝日が注ぎ青々とした爽快な緑に包まれるまでを、短くそぎ落とされた言葉とともに描いています。
じっくり眺め、ゆっくりと読む。自然とこうなる、絵本の醍醐味を感じる作品。
唐の詩人、柳宗元の漢詩「漁翁」をモチーフにした絵本。
ユリー・シュルヴィッツ 作、瀬田貞二 訳 福音館書店
「漁翁」柳宗元
漁翁夜傍西巖宿
暁汲清湘然楚竹
煙銷日出不見人
欸之一聲山水緑
廻看天際下中流
巖上無心雲相逐
「漁翁」を意訳してみました。
年老いた漁師は西岸の大岩沿いで夜を明かす。
明け方に清らかな湘江の水を汲み、竹を焚く。(朝食の支度をするということ)
朝もやが消えて日が昇ると老人の姿はそこにはない。(老人は船を出していた。)
舟を漕ぐ音が響き渡り、山も水面も緑に染まる。
空の遠くを振り返りながら流れを下ると、
もといた岩の上には、雲々が無心に流れている。
絵本「よあけ」には、漢文の4行目までがアレンジして描かれているようです。「よあけ」はとても評価されているのに、正直なところ初めのうちは私の想像力が及ばずよくわかりませんでした。しかしこの漢詩を読んで変わりました。静かな水辺で夜明けを迎え、舟を漕ぐ音がこだまする水上に朝日が注がれ、あたり一面が緑色になっていく豊かに変化する情景に思いが及ぶようになり、ようやくその美に気付きました。そして、山の中でキャンプをしてからは夜明けの壮大さを実感し、老人の爽快な気持ちを追体験したようでした。大自然の中で夜明けの体験のある人ならば、一度で「よあけ」の感動にあり付くのかも知れません。また、漢詩「漁翁」に出てくる人物は年老いた漁師だけですが、絵本「よあけ」には男の子も出てきます。子どもたちはその男の子に自分を重ねて、絵本の世界に入り込んでいくことができるのでしょう。
4~6歳から楽しめると思います。小学生にもぴったりです。
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