「天動説の絵本」

地球は丸い。地球は太陽の周りを回っている。こういうことは、小さな子どもでもいつの間にか知っている当たり前のことです。しかし、それは当たり前ではない時代がありました。その時代について安野光雅さんが「天動説の絵本」に描いています。

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「天動説の絵本」てんがうごいていたころのはなし
安野光雅 作、福音館書店

 地球が太陽の周りを回っている地動説を理解するための絵本を探し、この本にたどり着きました。
 天動説が信じられていた時代には、世の不思議や迷信、未知への恐れであふれていました。世の中に対して探求心のある人たちも次第に生じていきます。そして地球が丸く、地球は太陽のまわりを回っていると気付いた人たちへの悲しい弾圧。地球が丸くて動くことを証明したいと行動する人々の勇気。その時代の人々の心の揺れが読む人に伝わるよう、一つ一つわかりやすく語りかけ、天動説が覆されようとする時の緊張を垣間見るような感動を覚えます。天体の図鑑などでは説明しきれない、人々の地球の認識の大変革が描かれています。
  安野さんはあとがきの一文にこう記しています。「・・・天動説を信じていた昔の人々がまちがっていたことを理由に、古い時代を馬鹿にするような考え方が少しでもあってはいけません。」そして、あとがきをこう結んでいます。「・・・そうした歴史を思うと、『地球は丸くて動く』などと何の感動もなしに軽々しく言ってもらっては困るのです。この本は、もう地球儀というものを見、地球が丸いというものを前もって知ってしまった子どもたちに、今一度地動説の驚きと悲しみを感じてもらいたいと願ってかいたものです。」
  この絵本の意図がよくわかりました。今となっては当たり前の事実が生み出されるまでの事をおろそかにしないよう、この本を大事に読み継ごうと賛同しました。安野さんのこのあとがきもとても感動的です。 
  以前、美術館にて安野光雅さんの作品展を観ました。私が小さい頃に読んだ絵本や大人になって読んだ絵本の作品もあり、たいへんな親しみを感じながら鑑賞できました。安野さんの作品にはどれも絵からにじみ出る落ち着きと優しさがあり、細やかな描写をじっくりと眺めていると、ゆったりと時間が流れていきます。そして、その落ち着いたたたずまいの中に、既存の概念を打ち砕く驚きに満ちている作品がたくさんあります。
  地動説を理解するための絵本を探してたどり着いたのは、天動説を信じた時代の視点から描かれた「天動説の絵本」でした。この視点も私にとっては意外な驚きで、同時に安野さんの優しさと情熱が注がれた傑作だと思っています。

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